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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(行ツ)61号 判決

上告人

大分税務署長

吉永亨

右指定代理人

島村芳見

外三名

被上告人

山豊証券株式会社

右代表者清算人

山田豊

福田隆

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人島村芳見、同東煕、同上原光正、同笠原貞雄の上告理由一ないし七について。

所論は、要するに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)には法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの。所論に昭和三七年法律第六七号による改正前のものとあるのは誤記と認める。)三二条の解釈適用を誤つた違法があるというのである。

そこで、本件更正の附記理由をみるのに、その更正通知書の理由欄に、係争事業年度所得の加算項目として、(1)営業譲渡補償金計上もれ一一五五万円、(2)認定利息(代表者)計上もれ一万九八三九円、清算所得の加算項目として、(3)残余財産価格の違算分四〇〇〇円、(4)代表者仮払金三九万六八九〇円、(5)営業譲渡補償金九〇五万円と記載されていることは、原判決の適法に確定するところである。所論は、右各項目のうち(1)(5)の記載は、「被上告会社は訴外日興証券株式会社に営業を譲渡した対価として二五〇万円を清算所得に計上していたが、被上告会社代表者山田豊が右訴外会社から受領した借入金三〇〇万円、嘱託料二九〇万円、手数料三一五万円、計九〇五万円も右営業譲渡の対価であるのにこれが脱漏しており、営業譲渡の対価の総額は一一五五万円と評価されるので、これを加算すること」および「九〇五万円は営業譲渡の対価の債権であること」を端的に要約したものであり、また、(2)(4)の記載は、「被上告会社の前記山田豊に対する仮払金と立替金についての認定利息が一万九八三九円であること」および「被上告会社の山田豊からの受入未済金が三九万六八九〇円であること」を端的に明らかにしたものであると主張する。しかし、(3)を除く前記各加算項目の記載から、右主張のごとき更正理由を理解することはとうてい不可能であり、その記載をもつてしては、更正にかかる金額がいかにして算出されたのか、それがなにゆえに被上告会社の課税所得とされるのか等の具体的根拠を知るに由ないものといわざるをえない。

してみると、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的として更正附記理由の記載を命じた前記法人税法の規定の趣旨にかんがみ、本件更正の附記理由には不備の違法があるものというべきである。したがつて、これと同旨に出た原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解に立脚して原判決を非難するものであり、すべて採用することができない。

同八および九について。

所論は、かりに本件更正の附記理由に不備があるとしても、その瑕疵は、本件審査裁決に理由が附記されたことによつて治癒されたものと解すべきであり、これを認めなかつた原判決は違法であるというのである。

しかし、更正に理由附記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることに徴して考えるならば、処分庁と異なる機関の行為により附記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査裁決によつてはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。そして、更正が附記理由不備のゆえに訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限によりあらたな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから、審査裁決に理由が附記されたからといつて、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。

それゆえ、更正における附記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである。これと同旨の原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(関根小郷 田中二郎 下村三郎 天野武一 坂本吉勝)

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